無職の絵日記

ただ何もしていないだけです。

「代理排便」(ショートショート)

『たった40分で誰でも必ず小説が書ける超ショートショート講座』という本を読みました。著者はショートショート作家である田丸雅智で、全国各地でショートショート講座を開催したり、「坊ちゃん文学賞」の審査委員長をつとめたりしています。ワークシートが用意されており、これを埋めていくことによりステップ・バイ・ステップで誰でもショートショートが作れるというものです。実際やってみましたが、けっこう楽しめます。普段はどうしても動画を見たり本を読んだりといった受動的な活動ばかりになりますので、たまにはこういった能動的な活動を行うと脳が喜ぶような気がします。以下は、この本のワークシートに沿って書いてみたショートショート(1000文字ちょっと)です。

タイトル:「代理排便」

代理出産が当たり前になった時代。すでに技術的な課題も倫理的な課題もクリアされてから数世紀の月日が流れた。ついに、人類にとって出産と並んで原始的かつ本質的な営みである「排便」にも取り組む時がやってきた。この課題に意欲的に取り組んだのはかつて新興国と呼ばれていたアフリカやアジアの各国である。急激な人口増と経済発展に伴い、そこに暮らす人々のストレスも人間という生き物が本来抱え込める度合いをとうに超えていた。それらの国々ではメンタルを含む健康的なリスクが増大し、各国政府が支持率を維持するために、健康課題への取り組みが最重要視されることとなった。特に重視されたのが便秘対策である。歴史上、例を見ないスピードで変化する社会に暮らす人々が受ける重圧は、そのまま彼らの排便能力の弱体化につながった。このような状況下において、代理出産の技術で先進国をリードし、代理出産を目的のひとつとした観光旅行を国の重要な産業のひとつと位置付けているA国が「代理排便」の技術にいち早く取り組み、確立したことは必然であった。各国の富裕層をはじめとする便秘に悩まされていた人々はこぞってA国の代理排便サービスを利用するようになり、A国はインバウンド排便の興隆により一人当たりGDPを一気に西側諸国なみに押し上げた。排便サービスは永続的な利用を前提に設計されており、サブスクリプションサービスで提供された。このサービスを利用する人たちも最初のうちは便秘がひどい時だけ代理排便を行なっていたが、やがて自分で排便できる時であっても代理排便を利用することが常態化していった。これを問題視したのは西側の超大国で、安全保障上の問題から排便を取り戻すことを掲げた極右勢力が政権を取ると、A国を初めとする「世界の便所」各国に排便関税を課すことを宣言した。しかし、このことによって窮したのは、関税による負担を被ることになった超大国の国民であった。すっかり弱体化しきった排便能力のため自身での排便も叶わず、関税による価格上昇により代理排便も満足に利用できず腹をパンパンに膨らませた人々が街に溢れた。関税発動から一月後、人々の限界に達した排便がついに爆発し、超大国の国土は糞尿と異臭に塗れた。超大国は、今後100年は草木も生えない不毛の地となった。